微醗酵茶『ほくめい』
登山家田部井淳子さんが親しんだ日和田山。曼珠沙華の群生で有名な巾着田。
高麗郷を代表する自然の中間に位置する旧新井家住宅は八年前 高麗郷の景観保全を目的に、日高市に取得されました。
三年前 国指定有形文化財となり、今ではすっかり高麗郷のランドマークとなりました。
現在、道路沿いの前庭では菜の花が賑やかです。南向きゆえ 暖かな陽射しを浴びて、本格的な春の訪れを周囲にアピールしているかのようです。
静謐な印象だったのが、急に華やかになりました。 日高市の提唱する「遠足の聖地」の貴重な文化資産です。
平成7年に登録された、茶農林43号「ほくめい」。種子親が狭山品種を代表する「さやまみどり」のためか、県内ではそこそこ栽培面積を誇る品種です。事実 葉肉が厚く、煎茶として仕上げてみると、大柄の下葉や太い棒はそのDNAを色濃く感じます。
一方 内質は苦渋味が強く、とても上質な品種には思えない、不肖の息子といった印象。「さやまかおり」同様、苦渋味のある品種は狭山茶には不向き、というのが狭山茶問屋としての感想です。
ところが、釜炒りでは評価が一変。口中に広がる渋みから開放され、軽やかな味と飲後の清涼感のバランスがとても良好です。醗酵のなせる技でしょうか。
微醗酵茶『琥白』用に「ほくめい」の再製を実施しました。原葉は5月14日入間市上谷ヶ貫産。晩生種ながら例年になく早い時期の、釜炒りに最適な ていねいな摘採茶葉ゆえ、下葉も硬化した軸も少なく、美しく整った外観です。ただし、肝心の萎凋香は華やかさに欠け、正直 地味目な印象。
そこで、台湾製焙茶機の能力確認も含め、高温度での火入れに挑戦しました。温度設定を2割ほど上げ、バスケットの上を和紙でカバー。結果、ほんのり焙煎香を感じる仕上となりました。
もともと白毛が目立つ品種ではないようで、シルバーチップはないものの、茶葉と軸の表面には産毛が残っているのが確認できます。
茶葉の色も緑が濃く、緑茶品種由来の微醗酵茶らしい、好ましい外観です。
香味は苦渋味がなく、淡白ながら、これはこれで使いやすい仕上がりとなりました。
なにより水色が美しい。
従来とは異なり、醗酵茶らしい濃度があります。
先日来店した林和春君が「ほくめい」の親葉を観て、日本茶品種としては醗酵茶向きの外観を指摘していました。
とすると、醗酵度を上げると豹変する品種かもしれません。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎