手火入れ「さやまみどり」

いつもながら、この時季になると気になる茶があります。それは蒸し製の「さやまみどり」です。

昭和28年に「茶農林5号」として登録された狭山茶のルーツと呼べる品種です。萎凋香性能もさることながら、独特な個性で多くの狭山茶業者を魅了してきました。

 

【さやまみどり と火入れ用ほいろ 】

「さやまみどり」は火入れ方法によって香味がガラッと変わります。特に萎凋香のあるものは顕著で、茶温を上げるほどに個性を発揮し、味も香気も濃厚になる、稀な品種です。今回はほいろ を使用した狭山流手火入れを施しました。使用するのは手揉み茶用よりも小振りの電熱式ほいろです。

 

【盛り火工程】

狭山流手火入れは「盛り火」 → 「摺(す)り火」 → 「抱き火」の三工程。「盛り火」は山に盛った茶を熱した和紙の上で滑らせ、茶温を上げ、茶に含まれる水分を均一に整える予備乾燥の工程です。

 

【摺り火工程】

「摺り火」は茶をほいろ上に広げ、掌で少量づつ和紙に擦るようにしながら、茶を上下・左右方向に移動します。茶業試験場の先生に尋ねたら「次工程で良好な火が入るよう、茶の表面に細かいキズをつける工程」との事でした。静岡にも宇治にもない、狭山固有の火入れ方法に思われます。

 

【抱き火工程】

手さばきは「盛り火」と同じ。違うのは茶温。このときは高温で、茶の表面が滑らかになっています。火入れの塩梅は時間で調整します。

 

【茶葉外観

もともと葉肉の厚い茶葉に物理的な力が加わる火入れ工程により、見栄えのしない外観です。静電気の影響もあるので、落ち着くのを待って箕ぶきをすれば、もう少し別嬪になるでしょうか。

ほいろ火入れの長所は蒸れない事と茶葉に風を当てないこと。少量のうえ時間がかかる火入れ法ながら、茶の内質に与えるメリットは計り知れないものがあります。

 

狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎