期待のNewcomer『むさしかおり』
一番茶の製造はほぼ終了。後は 碾茶用の摘採を残すのみとなりました。今年度最大の収穫は ひょっとして この品種かもしれません。
それは入間市 市川喜代治製『むさしかおり』。5月21日入間市上谷ヶ貫産、蒸し製の荒茶です。
新植から4年。昨年始めて製茶され、入荷した品種です。
彼の父君は『さやまみどり』を選抜し、狭山に萎凋を広めた 故太田義十 元埼玉県茶業試験場長の愛弟子ゆえ、彼はその萎凋技術の正統な継承者でもあります。昨年は初摘みという事でそのまま製茶したのを、今年はしっかりと萎凋してくれました。
『むさしかおり』は平成9年に農林登録された「茶農林46号」。
花粉親は『さやまみどり』と台湾種『硬枝紅心』の実生。父方の祖父母は共に素晴らしい「系統」ゆえ 萎凋性能は大いに期待されていたものの、お目にかかかる機会のない品種でした。乗用型摘採機が標準の狭山にあって、台湾種に特有の「開張型」樹姿が敬遠されたのでしょうか?
蒸し度は上々。若木のためか、暴れた形状。
一般的には「萎凋香は若蒸しに限る」と言われるけれども、私は萎凋香を表現したい茶は若蒸しよりも蒸し塩梅の方が勝っていると考えます。なぜなら、きちんと萎凋工程を経た茶は香気だけでなく、味でも萎凋香を伝えることができるのですから・・・!
狭山茶らしく、青すぎない おだやかな水色。
「ふくみどり」とも「ゆめわかば」とも全く似ていない萎凋香・・・ そして それはとても大切な事。思いのほか驚いたのは その味。「意外」と言っては失礼かもしれないけれども 苦渋味の全くない、どっしりとした好ましい味。これは『さやまみどり』から受け継いだ美点かもしれません。
萎凋香のあるなしで これほど変わるものなのか!・・・ 今後 上級茶の合組に影響を与えるのは必至です。いやいや、このまま単体で販売すべきなのかも。
狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎