『ビンカ種』火入れ・・・ 質実剛健

埼玉県には「彩の国」という愛称があります。それは冬の晴天日数が日本一だから。ときがわ町には国立天文台堂平観測所が建設されており、毎晩のように きらびやかな冬の星座を眺めることができます。そして最も冬を感じるのが晴れた日の夕方、それも日没直後。山際まで澄みきった大気、奥武蔵の山々は薄明のシルエットに蒼く沈み、雲だけが地平線下の太陽に照らし出され、みかん色に染まる。やがて訪れるであろう星々の瞬きと しじま を予感させる、武蔵野特有の夕暮れです。

写真は飯能市にある高山不動尊から撮影した、日没直後の様子。南南西から真西にかけて広がるパノラマ。左端には箱根山が、中ほどには富士山頂が遠望され、奥多摩から秩父へと続く山波が連なり、その手前には奥武蔵の山々が横たわる・・・ 見応えある 美しい風景なれど、願わくば雨がほしい!

昨年製茶した『ビンカ種(本在来)』釜炒り茶に再製を施します。火入れには、台湾から取り寄せた焙茶機を使用。5 kg用なので、一釜分にはちょうど良いサイズ。日本製の透気乾燥機は風量が多く、短時間で均一の火入れが可能ながら、せっかくの萎凋香をスポイルするような気がして・・・ その点、古のバスケットファイア方式は風量=0。さらに熱源は電気なので、異臭の心配もゼロ。欠点は投入した茶が上部と下部で温度差が大きい事と火入れ中の香気の変化がつかみづらい事。サーモスタット装備で、温度調節が可能ゆえ、低めの温度でゆっくりと火入れを行うのに適した火入れ機に思われます。結果120 分間を費やしました。
今や 希少な『ビンカ種』。煎茶用に品種改良されたものに対し、小柄で節間が短く、繊維質の多い、薄い葉肉の生茶葉。留学僧が招来した、中国小葉種本来の特性を色濃く残しているのでしょうか。仕上がった外観は小さな茶葉と軸の多さが目を引きます。渇変した茶葉が目立つのも特徴かもしれません。濃い目の色合いが好ましい水色。香気は艶やかな花香とか、フルーティーな萎凋香とは無縁で地味目な印象。じっくりと長時間行った火入れの効果か、味は悪くない。ただし、おしゃれな風味とは無縁で、たとえれば 質実剛健・・・ かな?

インパクトのある「品種」ではないものの、うまみを感じない分香気が判りやすく、正統的な半醗酵茶と言えるかもしれません。

 

狭山茶専門店 備前屋 清水敬一郎